大監督ジョン・ヒューストンの遺作。見逃していたのをムービープラスでようやく鑑賞。
ジョン・ヒューストンといえば、まず第一作「マルタの鷹」。辻褄があっていないような脚本を問答無用な迫力で押し切る演出が豪快。以後も「キーラーゴ」「黄金」「アフリカの女王」などハンフリー・ボガードの映画の監督を次々と務めながら、「赤い風車」(ロートレックの伝記 悲しいがおもしろい!)「白鯨」(あれです)「天地創造」 「007カジノロワイヤル」(007パロディ)節操ないほどいろんな映画を撮り、自らも俳優として出演、ハリウッドの生きる歴史ともいえる人物であった。 私がリアルタイムで観ていたのはペレも出演した「勝利への脱出」(81)ミュージカルの「アニー」の映画化(82)、次作「火山の下で」(84)でカンヌ審査員特別賞(駄作)、次の「男と女の名誉」(85)が大ヒット(傑作!今でいうMr.&Mrs.スミスみたいなもんか?)と老いて益々盛ん、ぶいぶい言わせていた時期だけにその後、地味な本作を最後に幕を閉じたその中身が気になっていた。
これはジェイムス・ジョイス原作に忠実に映画化していながら、彼が監督だということで似て非なる感慨をもたらします。 これは完全にジョン・ヒューストンの私的映画です。配役に娘のアンジェリカ・ヒューストン、脚本に息子のトニー・ヒューストンで固めたファミリー映画であり、自らの死期を原作になぞらえた辞世の句といえる映画。古き良き時代への郷愁と末期の眼から見た暖かくも厳格な虚無感。前半のテレビ映画のような予定調和の世界が一転ラストで破綻し、死を目前にした人間の独白に変わります。 酸素ボンベを手放せない身体になっても撮り続け、ついには自らが映画と化してしまったかのような映画です。合掌。
「人は皆いずれ亡霊になる。惨めに年老いて死ぬより情熱を抱き胸を張ってあの世へ旅立ちたい。君は何と長い月日を、死んでしまった恋人を思い続けてきたのか。これほど強く相手を思う、それが愛という感情なのだろう。時が始まって以来、多くの人がこの世で生きた。私もいずれ彼らのように灰色の世界へと旅立つ。彼らがはぐくみ生きたこの世界自体もまた次第に衰え消えていく。雪は降り続く。マイケルが葬られた寂しい墓地にも。雪は最期の時のように、ひそやかに宇宙から降り注ぐ。生者と死者に平等に...」
スポンサーサイト
テーマ:WOWOW/スカパーで観た映画の感想 - ジャンル:映画
|